Kenta Yago with OMF”Lucy” 2
矢後さんとルーシー2
さて、前回「テンションがとてもきつくて、しっかり振動させてやらないと鳴らないじゃじゃ馬のようなギター」を実験的に製作してみたかったと書きましたが、実際にどのようなアプローチをとったのか記します。
先ずテンションですが、これはスケール長と弦のゲージとチューニングによって決まります。前回書いたようにファンフレットのスケール長を665-645mmに決めたので、これまでずっと作り続けてきた僕のOM(641mm)よりは自然とテンションは大きくなります。計算してみると、641mmスケールにライトゲージを張ってスタンダードチューニングにした時のテンションは72.0kg、665-645mmマルチスケールに同様のセッティングだとテンションは75.2kgとなり、4.4%テンションが大きくなるのが分かります(弦のメーカーや材質によって多少誤差があります)。
それから、実際のテンションの他に「テンション感」というものがあります。仮にスケール長やゲージやチューニングが同じだとしてもテンション感に違いが出るのは、ナットやサドルで弦の折れ曲がる角度や弦高などが違うことが原因です。昨年のサウンドメッセの時に発表したOM3.0の基になった研究には、この折れ角の変更も含まれています。
スタンダード | DADGAD | |
665-645mmマルチスケール | 75.2kg | 68.2kg |
641mmスケール | 72.0kg | 65.3kg |
スタンダード | DADGAD | |
665-645mmマルチスケール | 87.1kg | 79.3kg |
641mmスケール | 83.4kg | 75.9kg |
弦高が一定として、テンション感をきつくするためにはナットやサドルでの弦の折れ角を大きくしてやります。特にナットの場合は、ネックのへの字の角度に近似されるのでヘッド角とも言えます。
左の写真は通常のOMモデルのネックと今回製作したファンフレット用のネック(手前上)を粗加工したものです。通常のOMモデルよりもヘッド角がきつくなっているのが見てとれると思います。
つまり、今回のファンフレットはスケール長によるテンションの増大に加え、ヘッド角をきつくすることによってテンション感もきつくなるよう意図して製作しました。一般的にはテンションのきついギターは左手の負担が大きくなるため敬遠される傾向にあると思いますが、矢後さんがテンションの「強い」ギターを求めていたので敢えてそのようにしたのです。